オーナー・管理会社必見!不動産売買時に問われるPCB特措法上の「処理責任」
古い工場、倉庫、マンション、店舗などの不動産を売買・譲渡する際、目に見えない巨大なリスクが潜んでいます。それが、人体に悪影響を及ぼす「PCB(ポリ塩化ビフェニル)廃棄物」の問題です。
PCB含有物が残っている建物や土地の取引は、通常の売買契約にはない独自の注意点があります。なぜなら、PCB廃棄物に関する責任は、物件の引き渡し後も売主(汚染原因者)に残り続け、PCB特別措置法(PCB特措法)によって極めて厳格な規制が課せられているからです。
今回の記事では、不動産取引におけるPCB問題の全貌を明らかにし、「PCB廃棄物の第三者譲渡禁止」という根幹のルールから、使用中の機器の取り扱い、そして取引後のトラブルを回避するための契約上の特約事項まで、不動産オーナー、管理者、そして宅建業者が知っておくべき必須知識を徹底解説します。
不動産取引とPCB問題に関する2つの注意点

PCBは人体や環境に強い毒性を有するため、PCB特措法および廃棄物処理法によって厳しく管理されています。不動産取引においてPCB問題が深刻化する理由は、主に以下の点にあります。
注意点1:責任は「売主・汚染原因者」に残り続ける
不動産取引後、買主が取得した土地や建物からPCB廃棄物や土壌汚染が発見された場合、民法上の瑕疵担保責任(契約不適合責任)だけでなく、廃棄物処理法やPCB特措法上の処理責任が問題となります。
特に重要なのは、PCB廃棄物に対する行政上の責任者が、購入して引き渡された後でも売主や汚染原因者であると見なされるケースが多い点です。
買主は多額の調査・処理費用を負担せざるを得なくなり、結果として売主に対する損害賠償請求や原状回復請求に発展する可能性があります。過去には、このような請求を認めた裁判例も存在します。
注意点2:PCB廃棄物の第三者譲渡は原則禁止
PCB特措法第8条により、PCB廃棄物(電路から外された機器や汚染物)を、許可を得ていない第三者に譲り渡す行為は原則として禁止されています。違反した場合、3年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金、またはこれらが併科されます。
この規制は非常に厳格であり、物件と共にPCB廃棄物を「放置する」ことはおろか、外部倉庫へ移し替えて、第三者へ保管を任せる行為すら認められません。この法的制約こそが、不動産売買の手法や契約内容を決定づける最も重要な要素となります。
【取引実務】不動産売買におけるPCBの具体的な取り扱い

PCB廃棄物が存在する、または存在する可能性がある不動産を取引する際、売主と買主はそれぞれ以下の具体的な対応が求められます。
具体例1:廃棄物が残る建物の売買手続き
PCB特措法によって第三者への譲渡が禁止されているため、PCB廃棄物が所在する不動産を売買する場合、PCB廃棄物を譲渡の対象から外さなければなりません。
つまり、建物本体は引き渡しても、PCB廃棄物の所有権と処理責任は、引き続き売主(元の保管事業者)が保持し、適正処分する義務を負います。
売主の義務
不動産取引をする前にPCB廃棄物を特定し、売買契約の対象外とし、最終処分が完了するまで保管・処理責任を負う。
買主が注意すべき点
買主は、売主が処理を完了させるまでの間、PCB廃棄物の適切な保管(特別管理産業廃棄物保管基準の遵守)に協力する義務が生じる場合があります。
具体例2:使用中の低濃度PCB機器の取り扱い
建物内で現在設備やシステムとして使用中の低濃度PCB機器(例:トランス、コンデンサ)は、その時点では廃棄物に該当しないため、「PCB廃棄物特別措置法で定める譲り渡し・譲り受け原則禁止の規定」には抵触しません。物件ごと譲渡することは可能です。
しかし、以下の点に厳重な注意が必要です。
再使用の禁止
一度電路から外されたPCB含有電気工作物は、電気事業法に基づき移設や再使用が禁止されます。
廃棄物化と責任の移行
使用中の機器でも、売買契約後に撤去・取り外しを行った場合、その機器は直ちに「PCB廃棄物」となり、PCB特措法の適用対象になります。この時点で、取り外した際の物件所有者または機器の所有者が新たな保管事業者、つまり処分責任者となります。
トラブルを避けるため、使用中の機器の有無、そして将来的な撤去・処分責任を、契約書で明確に明記しておくことが不可欠です。
取引前の「PCB調査」と「契約特約」の重要性

不動産取引を安全に進めるためには、「事前調査」と「法的リスクの明記」が鍵となります。
取引前に必ず実施すべき調査
不動産取引を行う前に、売主は建物内にPCB含有の変圧器、コンデンサー、または蛍光灯等の安定器が設置されていないか、専門業者による調査を行うべきです。特に、1977年(昭和52年)3月までに建築・改修された古い建物は、PCB使用製品が残っている可能性が高く、見落としがないよう注意が必要です。
PCB廃棄物が発見された場合
売主側に適正な処分(低濃度PCBは2027年3月31日までに処理完了)が求められます。
使用中の電気工作物の場合
電気事業法に基づき、売主は廃止届出、買主は新たに設置等届出を行う必要があります(地位の承継を除く)。
不動産取引後のトラブルを防ぐ「特約」
PCBは宅建業法35条の重要説明事項には含まれていませんが、その毒性や処理費用の高額さから、取引後のトラブル防止のためには契約書での明記が極めて重要です。
特に、取引後にPCB廃棄物が発見された場合に備え、「関連法令に基づき、売主の負担と責任で適正に処分を行う」といった特約を付しておくことが、買主・売主双方にとって安全策となります。この特約は、引き渡し日以降も売主が責任を負うことを明確化します。
例外的にPCB廃棄物の譲渡が認められるケース

PCB廃棄物の第三者譲渡は原則禁止ですが、PCB特措法で例外的に譲渡が認められるケースが存在します。
これは、PCB廃棄物の適正処理を確実に行うための例外措置であり、処理に関わる特定の主体(地方公共団体、処理業者)との間でのみ許容されます。
地方公共団体への譲渡
地方公共団体に対して譲り渡す場合。
処理委託
特別管理産業廃棄物の収集運搬業者や処分業者に処理を委託する場合。
専門業者による受託
特別管理産業廃棄物処理業者や無害化処理認定業者が、収集運搬又は処分を受託する場合。
試験研究目的
処理技術の試験研究や処理施設における試運転を目的とする場合。
これら例外的な場合を除けば、PCB廃棄物の保管を第三者(友人、別の倉庫管理者など)に委託することは、譲渡と見なされ禁止されています。
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不動産取引におけるPCB問題は、単なる環境問題ではなく、企業の財務とコンプライアンスを揺るがす重大な法的リスクです。処理期限(2027年3月31日)が迫る低濃度PCB廃棄物について、売買契約前に存在を特定し、適正に処理する計画を立てることが、取引を円滑に進める唯一の道となります。
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