アスベスト(石綿)を取り扱う業務に従事する際、事前調査や現場の飛散防止対策と並んで極めて重要なのが、労働者の「健康管理」です。石綿は目に見えない微細な繊維であり、吸い込んでから発症するまでに数十年という長い月日を要します。
そのため、事業主には石綿障害予防規則(石綿則)に基づき、特別な健康診断の実施が義務付けられています。これを怠ると、行政からの指導や立ち入り調査での指摘、さらには将来的な労働災害トラブルに発展するリスクがあります。
今回の記事では、石綿健康診断の対象者、検査項目、結果の報告、そして「40年間」という驚くべき保存期間のルールについて詳しく解説します。
※情報引用元:厚生労働省「石綿作業従事者に対する健康診断」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/sekimen/jigyo/newpage_50887.html
事業主に課せられる「石綿健康診断」の実施義務

事業者は、石綿等を取り扱う業務に常時従事する労働者、および過去に従事していた在籍労働者に対し、定期的に特定の項目についての健康診断を行わなければなりません。
健診が必要な「対象者」の範囲
石綿健康診断の対象となるのは、主に以下の3パターンに該当する労働者です。
・現在、石綿等の取扱い業務に常時従事している者
・過去にその事業場で、石綿等の取扱い業務に常時従事したことがある在籍者
・石綿の粉じんを発散する場所の周辺で業務を行っている(または過去に行っていた)者
ここで注意したいのが、現在直接アスベストを触っていなくても、過去に従事した経験がある労働者が社内に残っている場合は、継続して健診を受けさせる義務があるという点です。
実施のタイミング
石綿健康診断は、以下のタイミングで実施します。
・雇入れ時または当該業務への配置替えの際
・定期(6ヶ月以内ごとに1回)
一般的な健康診断(年1回)よりも頻度が高く、半年に1回の実施が求められる点が大きな特徴です。
石綿健康診断の具体的な検査項目(一次と二次)

石綿健康診断は、まず全員が受ける「一次診断」と、その結果に基づいて医師が必要と判断した場合に受ける「二次診断」の二段構えになっています。
一次診断の内容
業務経歴の調査
過去にどのような環境で、どのくらいの期間アスベストにさらされたかを確認します。
既往歴および自覚症状の有無
せき、たん、息切れ、胸痛などの症状が過去にあったか、現在あるかを検査します。
胸部のエックス線直接撮影
肺の状態を確認するためのレントゲン検査です。
二次診断の内容
一次診断で異常の疑いがある場合、さらに詳細な検査が行われます。
作業条件の調査
より具体的なばく露状況を再確認します。
特殊なエックス線撮影(CT検査など)
通常のレントゲンでは見えない細かな影を特定します。
喀たんの細胞診または気管支鏡検査
がん細胞などの有無を詳しく調べます。
「40年間」の記録保存が義務!石綿健康診断個人票の作成
健診を実施した後は、その結果を「石綿健康診断個人票(様式第二号)」にまとめなければなりません。
アスベストの潜伏期間は非常に長いため、この個人票は、対象者が石綿業務に従事しなくなってから「40年間」保存する義務があります。これは、日本の労働安全衛生関連の記録保存期間の中でも最長レベルです。
企業の合併や廃止、担当者の交代があっても、この40年という期間を確実に守り抜く管理体制が、コンプライアンス上極めて重要となります。
労働基準監督署への報告(様式第三号)
事業者は、定期の石綿健康診断を行った際、遅滞なく「石綿健康診断結果報告書(様式第三号)」を所轄の労働基準監督署に提出する必要があります。
立ち入り調査では、現場の掲示物やマニュアルだけでなく、この報告書が正しく提出されているか、そして全対象者が漏れなく受診しているかが厳しくチェックされます。「うっかり忘れていた」では済まされない重要な法的手続きです。
健康管理手帳と労災補償への道
一定の要件を満たす方には、離職時や離職後に「健康管理手帳」が交付されます。これがあれば、指定の医療機関で年に2回、無料で健康診断を受けることが可能になります。
また、万が一、石綿肺や中皮腫などを発症してしまった場合、それが業務に起因するものであれば労災補償の対象となります。日頃から適正な健康診断を実施し、記録を残しておくことは、労働者の健康を守るだけでなく、企業にとっても適切な補償を支える「誠実さの証明」となります。
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適切な石綿健康診断は、アスベストを取り扱う職場の「守り」の要です。しかし、そもそも「アスベストがある現場なのかどうか」を正しく把握できていなければ、適切な健診対象者の選定も、現場の安全管理も始まりません。
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